闇はいつもそこにある。


闇は、常にそこにある

人は無意識に闇を恐れる

それは太古の昔より人々が、ある存在を恐れているからである。
そして、その存在は…

1.
灰色の雲が空一面を覆っている。
降りそうで降りそうにないのが腹立たしくも思えてくる。
蒸し暑くないのが、せめてもの救いにも感じられた。
「チッ、鬱っとおしいな…」
ボヤきながら俺は仕事帰りの疲れた体を引きずって
家に向かった。

「ん?何だ、ありゃぁ…」

アパートの前の電柱の根元に何か黒い塊がある。
不思議な衝動に刈られて黒い塊に近寄ってみた。

「ん?何だ、只のゴミ袋じゃねぇか」

少し拍子抜けしたが今度は急に中身が気になって仕方が無い。

「ゴクッ、開けてみるか…」

何だか頭がぼぅっとしてきた…

ガサガサ

袋を開けて中身を覗いてみた。

「…!?……ッ」

2.
……………………………………

「もしもし、ちょっとアンタ!大丈夫かい?もしもしアンタ!」

……誰だ?俺の顔を叩くのは?

「…うん…?ここは……?」
「アンタ何、トボけてんだい?ここはアンタの住んでるアパートの前でしょうが!」
「…何?なんで俺がアパート前で寝てんだ?」
「そんな事、私が知ってる訳無いでしょ!そんな事より、
いつまでもこんな所に寝てると風邪引くわよ!」

その通りなので起きて部屋に帰る事にした。

「大家さん、どーもスンマセンでした」
「いいから、さっさと部屋に帰んなさい」

大家さんに礼を言って部屋に帰る事にした。 「ふぅ〜、何であんなトコに倒れてたんだ?」

まだ少し頭がぼぅっとした。

「そう言えば、あの袋はどうしたんだ?」

…確か、袋の中身を確かめようとして…駄目だ、その後が思い出せない。
あの袋の中身は何だったんだろうか?
まぁ、明日にでも確かめてみよう。
今日は疲れた。早く眠りたい。

3.
…カン……カン……カン……
何かが階段を登って来る音が聞こえる。
……ザッ…ザッ……ザッ……
今度は何かを引きずる音が。
まぁ、隣の住人だろう。
…ザッ…ザッ…ザッ……
音は俺の部屋の前で止まった。
誰だろう?
こんな時間に友人は来る筈もない。

ガチャ!ガチャガチャガチャッ!!

突然激しくドアノブを回しだした!
それにドアを激しく引っ張っている!

「こんな時間に一体誰なんだ!」

怒りの余り俺は怒鳴った!
すると、納まった様だった。
布団に戻って暫くすると、また何者かが、
ドアをガチャガチャとやりだした!

「しつこいぞ!一体誰だ!」

怒りの余りドアまでダッシュする俺。
急いで鍵を解き、叩きつける様にドアを開けた!

そこには…今までに見た事も無い
不気味な塊があった……

「な、何なんだコレは!?」

それは不気味に点滅を繰り返しながら部屋に入ってきた!

「テケリ・リ…テケリ・リ…」

黒い塊は鳴き声を発しながら俺に近づいてくる!

「一体何なんだ!この塊は!オイ、テメエ!どっかへ消え失せろ!」

「テケリ・リ…テケリ・リ…」

ジリジリと俺に近づいてくる…
とっさに俺は愛用のライターを投げつけた!

しかし、黒い塊はズブズブと飲み込んでしまった!
どうにかして、この塊を追っ払う手は無いのか!?

「…ブブ…は、早く…に…げ…なさ…い…」

塊の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた!
この声は…まさか!?大家さん!?
廊下から洩れてくる明かりで塊の一部が照らし出された!
そこには、既に塊に吸収されかけている大家さんの姿があった。

「う、うわぁぁぁぁぁっ!!!」

恐怖で混乱する俺。
何故、大家さんが!?
何故、この塊は俺を襲う?
何故、何故、何故!?

……そうだ、これは夢の続きだ!
夢だから、こんな非現実的な事が起こり得るんだ!
こんな悪夢は燃えて無くなってしまえ!
悪夢を見せられ、腹立たしい思いの俺は、
ガスコンロに火をつけ、その上から灯油をブチ撒けた!
あっと言う間に火が部屋中に広がっていく…

…おかしい……夢なのに熱いと感じる!?
ああ、あの黒い塊が俺を包み込んでいく………
大家さんと同じ様に…
…痛みすら感じる…リアルな夢だ……

4.
「あら奥さん、どうかなさったの?」
「いえ、この空き地にアパートがあった様な気が…」
「奥さん、疲れてるんじゃなくて?ここはずぅっと空き地のままよ」
「そうよね?私…きっと疲れてるんだわ…」

昨夜までアパートは存在した…
しかし…今となっては誰の記憶にも存在しない…
だが…あの電柱は残っている……
黒いゴミ袋も…

闇はいつもそこにある。

ー終ー

inserted by FC2 system